木の暮らしLAB

日本は世界有数の森林国でありながら、木材自給率は低いままで木材供給量の多くは今も輸入材で賄われているのが現状です。また驚くべき現実として、木材総需要量の半分以上がパルプチップ用やバイオマス燃料用であり、建築用木材として重宝されてきた本来の素材特性を生かして使われる場が失われつつあるのです。
戦後植林された国内人工林の多くが既に成熟期を迎えているにも関わらず、建築用木材としては有効に活用されず、手入れされない放置林も多く、又は、燃料用として一帯を皆伐したり、それら山林は当然、保水力に乏しく自然災害原因を孕んだ状態にあります。

健全に育成された木を、主に木工材料や建築用材として有効活用することこそが、本来の木材特性を生かすことでもあり、それが結果的に樹木の光合成でCO2から創られた炭素繊維を永く固定化することにもなります。森林育成とは何か、間伐含め伐採木材を有効的に利用する事こそが健全な森林整備であり、それが地球温暖化の防止や、水源の涵養、自然災害の防止、生物多様性など公益的な機能にも大きく役立つものと考えます。

この半世紀で一気に進んだ工業化の波で、合板や集成材に代表されるように「木質系工業製品」が次々生み出され、もはやそれらは主要な建築資材として流通しています。
工業生産においては、「品質の規格平準化」と「量産体制への合理化とスピード化」が技術革新のすべてとされている現代、木材のような自然素材を利用する場合、ばらつきの多いその品質特性から、いかに木の癖を殺し矯正して利用するかがテーマとなっていき、気が付けばコンクリートジャングルを造ってきたのも仕方がないのかもしれません。
しかしこうした使い方を追求する限りは、木材が木材として使われる道は広がらず、
林業界で木を大きく育てる意味も、経済的見地からでは益々見えなくなってきています。

温暖湿潤気候に恵まれたこの日本国土には、木材は量、質、共に今も十分内蔵されており、多様に活用できる可能性をまだまだ秘めています。林道はじめ物理的なインフラ整備の問題は残されているものの、それよりも当面の課題は、林業従事者、製材職人、建築大工等の技術者が時代の流れと共に急速に減少しており、今後、国産木材の再活用を目指そうにも、いずれの部門も高齢化と後継者不足という人的問題を抱えており、近いうちに技術継承もできない状況に陥り手遅れとなってしまうかもしれない、という点です。

この状況を打開するにはどうすればよいのか? 時間的猶予が無い段階で今後の人材育成と技術継承を図るには何が必要なのか。やるべきことはたくさんあります。
木材という素材の正確な知識を習得する事、伝統的木工技術と木製品に囲まれて暮してきた木の文化そのものを見直す事、更に、木材を建築構造材として有効に使うには、やはり伝統的な木造軸組建築理論を見直し再評価する必要もあります。国産木材の特性と強さ、伝統軸組みの確かさは、多くの古い建造物や木製道具を観察すれば見えてきます。

樹種に応じた木の特性をうまく利用してきた歴史が日本の伝統文化になっており、木の基本的な知識と技術も含めた総合的な木育システムが新たに必要であると感じています。

日本の現代木造建築は、80年代後半から外来工法にも影響を受け、やみくもに工業化を急いだ側面があります。しかし木造建築に限って云えば、本来はこの伝統的構法理論と合わせて複合的に工業化へ発展させていくべきものだったのではないかと考えています。
日本は世界最古の木造建築物はじめ、数えきれない木造文化財を有する国です。木材の扱い方とその高度な技術文化は今も生きています。掘り起こせば貴重な情報がまだ眠っており、次世代に繋いでいくべきものと確信しています。

日本の豊富な森林資源こそが、古代から日本文化を生み育んできたと云っても過言ではありません。森の恵みに感謝し、木を育て、木材を使い継ぎ、やがては土に還すという「木の文化」を現代社会に取り戻し、伝統木工技術を検証し、人材育成し、次世代への継承も視野に入れ、均衡のとれた真の循環型社会の構築に働きかけていきたいと考えています。
これからは、林業、木材流通、建築に限らず、他の多くの業界の専門家や一般市民とも、お互い繋がり協力しないと新たな木材の市場は作れません。業界を超えて作っていく難しさは承知の上で敢えて挑戦することにしました。使命感を持ってコツコツ手順を踏んでやっていこうというのが今の発起役員全員の熱い想いでもあります。
どうか多くの方の参画と協力を期待しています。

木の暮らしLAB    代表  飴村雄輔

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